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3.お散歩は楽しいものです?(前編)
「お稲荷様ー、ちょっと出て来ますね」
「何処へ行く」
「ちょっと近くのスーパーまで」
「我も行く」
「分かりました。じゃあ、私の中に入ってください」
「いや、今日はこのままで行くぞ」
そう言うお稲荷様は狐さんの姿。最近は私の外に出るのがすっかりお気に入りになってしまったみたいで、ソファーの一角はお稲荷様専用スペースになっていた。
「駄目ですよ、狐さんの姿じゃスーパーに入れませんよ。それに、その格好で町を歩くとちょっとした騒ぎになっちゃいますよ。『わー、きつねさんだー』って小学生に体中触られまくられること確実です」
「そうか……なれば、これならどうかの」
ポンッと音がして、お稲荷様が女の人の姿になった。普段はあるはずの耳と尻尾も今は隠されていた。確かにこれなら街を歩く事も、スーパーに入る事も可能だろう。
――あと一つの問題をクリアすれば。
「服を着てください!」
お稲荷様は全裸で、思わず貪りつきたくなる豊満な胸や、狐色の毛を生やした大事なところを隠すことすらなく私の前に仁王立ちしていた。これで外に出られた日には、即座に手が後ろに回るに違いない。というより、他の人になんてお稲荷様の裸を見せたくない。
「どうしてもかの」
「どうしてもです!」
「むぅ……」
仕方ないなぁと言わんばかりに渋々お稲荷様は私のTシャツとジーパンを身につけた。
「これでよいか……なんか窮屈だぞ」
「……出来ればお稲荷様の力で服を作っていただけると助かるんですけど……」
Aカップで小柄な私の服をおそらくGカップくらいありそうな胸かつ長身のお稲荷様が身に着けるとどうなるか……大きすぎる胸のせいでそうでなくても短いTシャツがさらに上に持ち上げられ、お腹は丸見え。細いウエストと大きくて張りのあるお尻のアンバランスのせいでジーパンはお尻で止まっているし……もう駄目、鼻血が……。
モデル以上、というかそもそも人間ごときとは比較する事さえ恐れ多い美しいお姉さんがこんな格好で街を歩けば狐の姿とは別の意味で、ちょっとどころではない騒ぎになってしまうのは火を見るよりも明らかだった。
「あまり力を使いたくはないのだがの……おい、何故写真を撮っているのだ」
「いやぁ、こんなお宝映像滅多に手に入りませんから。こんな格好、絶対に他人になんか見せたくない……じゃなくって、こんな格好で街を歩いたら町中の注目を浴びっぱなしですよ」
「……これでよいかの」
「おおっ!!」
きちんと身の丈にあったTシャツとジーパンを身に着けた瞬間、お稲荷様の周りだけパリコレ会場に早変わりした。
私のを真似た安物デザインのはずの服が最高級ブランドにしか見えなくなった。
「素敵です、最高です、お稲荷様! ……いえ、お姉さま!!」
「う……褒められているのは分かるのだが、素直に喜べぬの……お主、何だか目が怖いぞ……やめろ、こっちへ来るな」
「はみゃ〜ん、お姉さまぁ〜ん」
「こ、これ、やめろ……だから、抱きつくなというておろうがぁっ」
……その後の事は正直よく覚えていない。
気付いたときには私もお稲荷様も何故かすっぽんぽんで、すっかり機嫌を損ねてしまっていた。揚げ10枚でどうにか宥めたものの、何があったか聞いても教えてくれないし。
「街の人間よりお主の方がよっぽど危険だ」
なんて言われちゃう始末。
お稲荷様をどうにか宥めて次の休日はお稲荷様の服を買いに行って、帰りに美味しいと評判のお豆腐屋さんに寄ることに決まった。
早く次の休みが来ないかなあ。
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